グルーネヴァルトの17番線ホーム

 もう一年近く前になりますが、冬に行ったベルリンのことをちょっとだけ記しておこうと思います。

 ちょうどベルリンに行ったのはクリスマスイブの日でした。日本のクリスマスとは異なり、ほとんどの店は終日お休み。スターバックスも閉店してしまいます。テレビからはどのチャンネルを回してもクリスマスソングが流れていました。

 翌日のクリスマス当日に、旧東ドイツの秘密警察の跡地の博物館へ行きました。今なお残る独特な雰囲気は威圧的で気分が悪くなります。
 そのあと、ポツダムへ向かう途中にある郊外のグルーネヴァルト駅へ向かいました。グルーネヴァルトは大きな公園があることで有名なのですが、今回の目的は駅そのものです。

 この駅はナチス政権下でユダヤ人を収容所へ移送するいわばターミナル駅でした。
 着いたのは6時くらいであたりは真っ暗。民家もまばらで、きっと人目につかず都合が良かったのだと思います。

 この駅の17番線ホームは、ユダヤ人追悼のモニュメントになっていて、ホーム全体が鉄の枠で覆われています。
 そこには、ユダヤ人が移送された年月日、移送先、人数が延々と記されています。
 ホームの一番先には碑が立てられたくさんの花々が供えてありました。

 ふと見ると、ホームの途中に一輪だけ花が供えてありました。
 その列車に乗せられて亡くなった人の遺族が、今この時代にこの場所で追悼をしている。
 歴史の重さを感じざるを得ませんでした。

 以前ドイツに行ったときと、今回の旅行でチェコに行ったときにも強制収容所に足を運びました。
 どのようなことが行われたのかということは、時には目を覆いたくなるような展示を見れば理解はできます。
 ただ、どちらに行った時も、あまりにも日常との隔たりが大きすぎて、ぴんとこないという印象を持ちました。

 この駅の17番線ホームの脇の列車が止まる場所には木が生い茂っていて、長い年月が経ったことを物語っていました。
 ただ、レールはそのまま残されていました。
 もしこの木が切られてしまったら、同じことが行われるかもしれない。そんな想像をせずにはいられませんでした。
 私がいまここに存在していることと、歴史上の出来事とは切り離すことなどできない。
 そのことを少しは実感できたという気がしました。